片山ふえ
ウクライナ侵攻が始まって2年がたった今年の2月、私はあるビデオを発信しました。題して「ウクライナの芸術家たちは今……」
https://youtu.be/jtLJdGYgLg4
もうご覧くださった方、ありがとうございます。
まだの方は、ぜひここでご覧ください。今回はこのビデオにまつわる話を……。
20数年来の親友であるキーウの画家オリガ・ペトローワさんから「折り入ってお願いがあるの」というメールが入ったのは、昨年(2023)11月でした。そう、ウクライナの文化や歴史を描いた拙著『オリガと巨匠たち』に登場する、あのオリガです。
『オリガと巨匠たち』の旅の懐かしい写真(2008年)。ホチン城にて。
「戦争は一向に終わらないのに、ウクライナに対する世界の関心は薄れ始めている……でも、そんな中でも私たち芸術家は精いっぱい創作を続けている。創作を諦めないことが、私たちの闘いなの。そんな私たちの作品を日本の人に見てほしい!」
我が家のささやかなギャラリーで「ウクライナ絵画展」をしてほしいようなオリガの口ぶりだったので、私は仰天しました。大切な絵を無事に受け取れる保証はないし(実はウクライナからの郵便物は意外なほど確実に届いてはいますが)、それに辺鄙な場所にある我がギャラリーにオリガの期待に応えるほどの来客があるとも思えません。
「無理よ、オリガ、わたしにそんな力はないわ!」と大きな期待に押しつぶされそうになりながら、私は必死で抵抗しました。
「じゃあ、作品の写真を送るから、それを映像で観てもらって」、不屈のオリガに「諦め」という言葉はありません。
映像なら、実際の展覧会よりは気が楽だ……と私がふと思ったのを敏感に察知したオリガは、すぐさま何人もの作品の画像を送ってきました。それも、大物作家ばかり! 芸術アカデミー(日本でいうなら「芸術院」)会長の作品まであるじゃないですか!!(オリガ自身、評価の高い画家なので、自然とそうなるのでしょうが)。肩の荷がずしんと重くなりました。
どうやったら期待に応えられるのか……頭を抱えた私でしたが、こういう時、神さまはいつも私に親切なのです。恰好の助っ人を遣わしてくださいました。カメラやビデオに詳しく、趣味でyou tube を作っておられる桂一男さんです。
you tube になれば、オリガの希望どおり、大勢の人に見てもらえます!
これで、高いハードルをひとつ超えました!
次なるハードルは、ビデオの編集でした。画像を送ってきた7人の作品は、手法も趣もバラバラで、どうまとめていいのやら。プリントアウトした沢山の画像を前にウンウン唸る日々。お正月も呻吟のうちに過ぎました。
絵を様々に並べ替え、BGM用にいろんな音楽を試しました。でも……ちがう、これじゃない……
「光が見えた!」と思ったのは、岩川光さんがケーナで演奏するバッハをBGMに使おうと思いついたときでした。(ダジャレではありません!)
愛聴している光さんのバッハ無伴奏組曲から、第2組曲「前奏曲」「クーラント」「サラバンド」を選んだら、それぞれの絵が自然にしかるべき場所に収まっていきました。
それを桂さんが素晴らしい you tube に仕上げてくださったものが、文頭にURLを載せたビデオです。(ご覧ください!)

この企画は、思いがけない幸運にも恵まれました。今回の助っ人は、神さまではなく日本ユーラシア協会副理事長の浅野真理さんです。フットワークの軽い彼女は、協会を通じて関わっている中央アジアの子供たちの絵を「美は国境を越えて」という国際的な展覧会に出品すべく奔走中でしたが、ウクライナの画家の作品も出品できるように、働きかけてくださったのです。
この展覧会は、「国際墨友会(小林東雲先生主宰)」が毎年東京の国立新美術館で開いていて、30を超える国から水墨画が寄せられる大規模なものです。ウクライナの作家たちの作品は水墨画ではなかったけれど、小林東雲先生は、彼らの思いを汲んで、画像コピーを軸装して出品してくださいました。これは、画家たちにとっては意味のあることです。今後プロフィールに「日本、東京、国立新美術館に出展」の一行を書けますからね!
おまけに、展覧会におけるコンテストで、シドレンコさん、ジュラーエワさんの二人が受賞するというオマケまでつきました。
一連の成り行きに、ウクライナの作家たちは大喜び。これを記念して、キーウでも展覧会が開かれることになりました。題して「同じ空の下で」展。采配を振るうのは、もちろんオリガです。ポスターには、ビデオに登場する7人の作品が1点ずつ。ウクライナ日本共同企画、と書かれています。
以前は「ロシア美術館」と呼ばれていた会場で開かれた展覧会。「大好評よ!」とオリガから熱いメールが届きましたが、それも想像できます。私が東京で見たのは写真を小さな軸にしたものでしたが、なにしろこちらは原画なのです!!





EMSで送った「美は国境を越えて」展の「栄誉証書」が無事に届き、展覧会のオープニングで披露されました。

会場は終始熱い空気につつまれていたとか。そしてこの会場で、私の作った英語版のビデオが連日上映されていたそうです。
(こちらが英語版ビデオ)
https://youtu.be/qeyruFTIj7c
オリガの期待に応えて、ほんの少しでもウクライナの芸術家を励ませたようで、ほっと肩の荷を下ろしました。