もうひとつの故郷フローレス 五の巻

モンテイロさんの時間

青木恵理子

 1970年代、人類学者がフィールドワークの最中に現地特有の病気に罹り、亡くなることはそれほど稀ではなかった。私がマラリアに罹ってかなり重篤になっても回復できたのは、モンテイロさんと彼の家族の力が大きい。 “もうひとつの故郷フローレス 五の巻” の続きを読む

世界の彷徨い方 2

【フェイルーズの大地】  エジプト/シナイ半島

中村小夜(Saya)

その半島はフェイルーズの大地と呼ばれていた。「フェイルーズ」――アラビア語でトルコ石。深い青色をしたこの石は、透明感もなく光沢もない。しかし、その鮮やかな青の中には、かつて砂漠のベドウィンたちが思いをよせたオアシスが封じ込められているのかもしれない。
“世界の彷徨い方 2” の続きを読む

エレナ・ポーター作『少女パレアナ』

大人が読む少年少女世界文学全集 第6巻
狩野香苗

 

 


◆記憶はあてにならない……
今回ご紹介する『少女パレアナ』は、私が子ども時代に一番影響を受けた本であり、大好きなお話だったので、約45年ぶりに読み直すのをとても楽しみにしていた。
“エレナ・ポーター作『少女パレアナ』” の続きを読む

PHOTO 哲学の道

片山通夫

京都・東山のふもとの、若王子神社と銀閣寺を結ぶ「哲学の道」。京都大学が近く、かつて西田幾多郎博士らがここを散策しながら思索にふけったから、この呼び名がついたと言われる。昨年、秋が深まりゆくころに、この道を撮った。桜や紅葉のころには人があふれる小道も、おちついた貌を見せていた。 “PHOTO 哲学の道” の続きを読む

世界の彷徨い方

中村小夜  (Saya)

はじめまして。
旅の途中で日が暮れてしまい、遠くに見える灯をたよりに、この「ふえと大きな木の家」に迷い込んできました。あたたかい家主のふえさんに手招きしていただき、素敵な皆さまが集まるこの大きな木の家の片隅に腰かけて、異国の旅のお話などできると嬉しく思います。

わたしは中世イスラームを舞台にした歴史物語を書いている物語作家です。偶像崇拝を徹底的に排したイスラーム世界では、建物も、空間も、衣装も、書物も、文字と幾何学文様で埋め尽くされ、まるで目で見る音楽のような響きが共鳴します。そんな世界に魅了され、「いつか物語を書くなら、現地の空気や匂いや手触りを体験してから書きたい」と思い、突然、会社を辞めて1999年から2002年にかけて、中東と地中海を旅しました。 “世界の彷徨い方” の続きを読む

チェーホフの言葉 第2回

「つとめを果たす(2)―『僧正』」
渡辺聡子

 題名
「僧正」は、仏教の高僧を表わす言葉ですが、ロシア語の原題は «Архиерей» (アルヒエレイ)、正教の位階最高位に位置する主教職をさし、主人公の副主教ピョートル(修道名)もその一員です。1902年、チェーホフの死の2年前に書かれたこの作品は、主人公が復活祭を目前にして亡くなるまでの1週間をたどりますが、作者の自伝的要素を影のように織り込みつつ、人生と死を、永続的な時間や大きな世界において見た作品でもあります。
“チェーホフの言葉 第2回” の続きを読む

フォリパ・ピアス作『トムは真夜中の庭で』

大人が読む少年少女世界文学全集 第5巻
狩野香苗

◆いつか読まねば……という、「ねばならぬ本」

今回の『トムは真夜中の庭で』は、前回の『秘密の花園』と同じくイギリスのビクトリア朝の“庭”を舞台にした児童文学で、同じようなテーマが続き恐縮なのだが、このテーマがマイブームなわけでも、究めたいわけでもない。
たまたま時代的に20世紀前半に書かれた本が続いたので、今回は比較的新しい本――近現代を舞台にした本を読もうと思って選んだ結果なのだ。
“フォリパ・ピアス作『トムは真夜中の庭で』” の続きを読む

吉水法子の貼り絵の部屋 5

フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』によせて
吉水法子

めまぐるしく展開する時間の変化に追われて筋を追うのが精一杯。読み終わったものの最後までその世界に馴染めず、おぼろげな絵のイメージは掴んだのもののなんだかモヤモヤ・・

不思議なことですが、二度目に読んだときは、トムが月の光に浮かぶイチイ木の枝をかきわけるように、お話の中にどんどん入り込んでいきました。そこには少女時代も、成長しても魅力的なハティがいつも待っていたような気がします。

「かわらないものなんて、なにひとつないものね。わたしたちの思い出のほかには。」 “吉水法子の貼り絵の部屋 5” の続きを読む